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アンディ・マリーを知る(3)「Who is Vallverdu?」新コーチダニとは?

November 19, 2011

アンディ・マリーがジュニアの頃は、スコットランド出身で全国レベルのテニス選手はアンディと兄ジェイミーの二人のみ。そのためにスコットランドでのトーナメントはなく、イングランドの会場までたどり着くのに6時間以上はかかるという大変な苦労をしながらマリー兄弟はジュニア時代を過ごしてきました。

僕たちはいつもアウトサイダーだった。スコットランドではトーナメントもないし選手もいないので、兄のジェイミーと僕たちは二人だけのチームみたいなものだった。でもこのアウトサイダーだったことが今の自分を作り上げたと思っている。

15歳のときにブリティッシュ・テニスアカデミーの招待を蹴って、アンディはバルセロナのサンチェス・カサールアカデミーにテニス留学しました。しかし全くスペイン語のできないアンディは、最初の2週間は食堂でも一人ぼっち。そんな寂しげなアンディに声をかけたのが1歳年上の ダニエル・バルベルデゥDaniel Vallverduだったのです。国籍はベネズエラ。マリーのコーチボックスに表情を変えずに座っている25歳の青年(写真)がバルベルデゥです。

Photo: Zimbio

Who is Daniel Vallverdu?

バルベルデゥの名前がむずかしいので、ニックネームのダニ Dani(ファーストネームのダニエル Danielから由来)と呼ぶことにします。

アンディがコーチマクラガンと意見の違いで決別したのが2010年の夏。そしてパートタイムのコーチだったコレッチャ(最高ランキング2位、フレンチオープン準優勝者)がチームを去ったのが今年の3月。それ以来アンディはコーチなしと呼ばれていますが、実は今年の3月からダニがコーチに就任しています。

しかしダニ自身は最高ランキングが727位という低さ。一体かれは何者? Who is Vallverdu? とアンディの決断に疑問の声が多く聞かれました。この二人の関係はフェデラーとルティとの関係に似ていると思います。(アナコーンがコーチに就任する前まで、ルティはフェデラーのコーチでした)ダニとルティの共通点はアンディやロジャーをジュニア時代から知っていて最大の理解者だという点です。

またダニとルティが酷似している点は、アンディやロジャーがいくら彼らをコーチだと呼んでも誰も信用していない点です。何度もロジャーはルティはコーチだと言っても誰も彼のことをコーチだと思わなかったところが、アンディとダニのケースに似ています。ATPのアンディのページでもアンディのコーチはアディダスコーチ陣だと書いています。臨時コーチみたいな気持ちがアンディにあることは確かで仕方がないのかもしれませんが。

さてダニはテニスプロの道を選ばず2005年にマイアミ大学に入学。ビジネスを専攻しながらカレッジテニスで活躍しています。ダニの名前がメディアに登場したのが2008年。ロンドンのクウィーンズクラブのトーナメント(芝)にアンディのダブルスパートナーと出場したときのことです。残念ながら2回戦で二人は敗退してしまいましたが、ジュニア時代から気心が知れた仲だけに、アンディにとってはダニは彼を理解してくれる貴重な存在だったことは確かです。

それ以降ヒッティングパートナーとしてダニがチームに参加するようになり、マクラガンとコレッチャが去った後も、最後までアンディをサポートしつづけてきたのがダニだったのです。

ダニについてはアンディはこのように語っています。

ダニは(世界のトップレベルの選手ではないので)技術的なアドヴァイスは足らないかもしれないけれど、彼自身多くのトーナメントを経験してきているので、作戦や細かい点などによく気がつくところなどとてもよいと思っている。

ダニとは14〜15歳から知っているので、彼は僕のゲームを熟知しているし、僕がどのようなプレーが好きで何が嫌いなのかも知っている。そして彼は人間としての僕をよく知ってくれているから、話やすくてコミュニケートしやすいんだ。

ダニのコーチ就任はテニス界からかなり批判されました。「アンディに必要なのは友達コーチではなく経験豊かな優れたコーチである。」誰もアンディの決断を支持する者がいない中で、兄のジェミーは興味深いコメントを残しています。

アンディはいわゆるふさわしい人をコーチにすることによってアドヴァイスを得ることもできる。しかしアンディが必要としているのは、今彼に欠けている部分を補うことだ。それをアンディは自分自身でみつけることが大切だと思う。

それはメンタルなことだと思う。技術などその他のすべてをアンディは備えもっている。ただテニスへのアプローチがアンディは他の選手と違うのだと思う。もしアンディが違った独特の道を歩むのなら、選んだ人物を全面的に信頼しなければならない。信頼することによって自分の固いガードをゆるめて、違った意見やアドヴァイスを素直に受け入れていかなければならない。

なかなかジェミーはお兄さんだけあってマリーをよく理解していると思います。元コーチだったギルバートの本にマリーの話が出てきますが、マリーは自分が信じていることに対しては、他の意見に絶対耳をかさない頑固なところがあるそうです。口をすっぱくして言われつづけてきた「ディフェンステニスをやめろ」というアドヴァイスにも、頑固に自分のテニスを守り続けてきたマリーです。

ディフェンスではいけないことはアンディは百も承知しています。問題は今のパワーテニスに象徴される単純な攻撃一本鎗のテニスはアンディには向いていません。テニスは音楽や絵画と同じく自己表現の手段です。今のアンディは自己体現できるアグレッシヴなテニスを模索しているのだと思います。

アンディを深く理解してくれるのは元アガシのコーチだったケイヒルです。しかし彼にはESPNの解説の仕事とアディダス選手のアドヴァイザーという職務があり、アンディの選任コーチになることはできません。しかしアディダスに変わったアンディは、ケイヒルのアドヴァイスはいつでも受けることができる態勢にあります。

アジアでの快進撃では見事なアンディらしいオフェンステニスをみせてくれました。GSタイトルまであと一歩と迫ったアンディは、その一歩がいかに大変な一歩であるかを語っています。

僕がまだGSのタイトルをとれないことについて、イギリスのプレッシャーが大きいためと指摘する人たちがいるが、それは正確な意見ではない。テニスの歴史上ベストと言われるフェデラーとナダルと戦わなければならないこと。しかもジョコヴィッチが自己最高のパーフォーマンスを継続していること。今のテニス界は史上稀なる選手層の厚さで壮絶な戦いが繰り返されていること。僕がまだGSのタイトルをとれないのは、まだそのレベルに達していないことなのかもしれない。

またパリでのベルディフ戦でみせたアンディのメンタルのメルトダウン(審判に食ってかかったり、チームボックスに向かって怒鳴りつづけたこと)についてこのように語っています。

パリでは観客は5万人。しかも何百万人ものテニスファンがテレビで観戦している。自分の思うようなプレーができなかったときや、試合がうまく運ばなかったときなど、僕はいつもチームボックスを見てしまう。四面楚歌の状態で戦っている僕を無条件で受け入れてくれる仲間たちがいるチームボックスに僕のフラストレーションをぶつけてしまう。

それではいけないことはよく分かっている。もっと自分自身に、そして自分のゲームの集中しなければいけないということも分かっている。そんなことではNo.1になれないことも分かっている。

しかし勝利を得るにはもっといろんなファクターがあることを分かってほしい。僕は完璧ではない。フェデラーは冷静を保つことができるが、感情を爆発させる偉大なフットボールのルーニーの例もある。偉大な選手たちでもそれぞれ違うのだ。僕の場合は、感情を閉じ込めてしまって何も言わずに黙々とプレーすると、居心地が悪くなってしまってエネルギーが湧いてこないフラットな状態になってしまう。

まさにこのフラットなアンディをモントリオールで目撃して、あまりにも元気のなさに驚いてしまったことを覚えています。初戦でアンダーソンにぼろ負けしたアンディは、フラストレーションどころか、あっさりとしすぎてがっかりしてしまいました。

この点がフェデラーとナダルとの違いです。昔のジョコヴィッチもそうでした。優勝することがあるかと思えば、初戦で敗退してしまう。トップ3にいつづけるには、どんなに調子が悪くても勝てるテニスをしなければなりません。フェデラーが苦戦したときによく以下のように語っています。

「自分の思ったテニスはできなかったけれど勝ったことが大切なのであって、その点からすれば、今日の僕はよいプレーをやったと思っている。」

アンディが今後トップ3を守り続け、しかもGSでタイトルをとるには、ときには嫌なテニスもやらなくてはなりません。

アンディは感情(フラストレーション)を閉じ込めてしまうことは居心地が悪くなってできないと言っていますが、これもアンディがこれから取り組んでいかなければならない課題です。喜びの感情を爆発させることはよいエネルギーを生み出す原動力になりますが、ネガティヴな感情の爆発はネガティヴなエネルギーにつながってしまいます。

テニスの発達は人間の成熟過程に似て、失敗や経験を重ねることによって賢くなっていくものです。ロンドンのベスト8には30歳のフェデラーを筆頭に、29歳のフィッシュやフェレールの黄昏選手が名を連ねています。それぞれに課題をかかえながら、歳を重ねるごとに強くなっていく。すばらしいですね。

アンディはまだ発展途上の段階で自己発見の旅の人という感じがします。ギルバートとの関係がうまくいかなかったのも、アンディは自分は子供のように未熟だったと語っていました。アンディはこれからどのような旅を続けていくのでしょうか? ロンドンでフェデラーとの決勝が予想されるだけに、彼の活躍が楽しみです。

(本当はこれで最終回にしたかったのですが、テニスのアイデンティティについてアンディが興味深く語っていますので、機会をみつけて記事の連載を続けていきたいと思っています。)

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