ATPのパワー構図:選手の声が反映されないという不満

May 20, 2012 (更新)

ジョコヴィッチvsナダルのローマ決勝は、雨のため月曜21日12時に延期されました。一日余裕ができましたので、意外と知られていないATPの組織について書いてみたいと思います。ブルークレーの賛否両論で浮上してきたのが、選手vsトーナメントの対立関係です。ナダルが今年任期を待たずにプレーヤーカウンシルの副会長を辞任してしまいました。またジョコヴィッチがブルークレーにOKを出した元ATP会長に対して「選手のことなど全く配慮しない行為」と厳しく批判したことも含めて、ATPの組織のパワー構図について述べてみたいと思います。

[private]

ATPは大きく分けて、選手とトーナメントのカテゴリーに分かれ、それぞれの代表と一般のメンバーによって構成されています。最終の意思決定は、Board of Directors 取締役会(会長1名+プレーヤー代表3名+トーナメント代表3名)の投票によって行われますが、意見が50/50に分かれると会長が決定を下す権限を持ちます。ブルークレーの実施については昨年投票が行われ、賛成と反対が真っ二つに分かれたため、会長の権限でGOの意思決定がだされました。

Board of Directors(取締役会)

会長
Brad Drewett(元トップ40選手)

トーナメント代表:3名
Gavin Forbes(アメリカ:IMG)、Mark Webster(ヨーロッパ:メトログループ)、Charles Humphrey Smith(中国:IJE)

プレーヤー代表:3名
Giorgio di Palermo(ヨーロッパ代表)、David Egdes(インタナショナル代表:テニスチャンネル、元IMG)、Justin Gimelstob(アメリカ代表:テニスチャンネル解説者)

取締役会に助言を行うのがプレーヤーカウンシルとトーナメントカウンシルです。この二つのカウンシルには政策決定の投票権限はありません。

プレーヤーカウンシル(12名)

プレーヤーカウンシルはATP選手を代表した12人で構成されています。任期は2年で2010年のUSオープンで選手の投票により、以下のメンバーが選出されました。代表者のカテゴリーは以下のように分かれています。取締役会への助言はできても意思決定の権限はありません。

トップ50(4名)
会長:フェデラー
副会長:ナダル
クエリー、Fゴンサレス

ランキング51位ー100位(2名)
ニーミネン、リュクザック

ダブルストップ100(2名)
ジモニッチ、ブトラック

総合(2名)
アレグロ、フィッシャー

コーチ(1名)
ピストレシ

元現役(1名)
イリゴエン

トーナメントカウンシル(13名)

(プレーヤーカウンシルと同じく助言はできても意思決定権はありません)

ヨーロッパ代表5名
Richard Krajicek, Sergio Palmieri, Herwig Straka, Thomas Wallen, Mark Webster

インターナショナル4名
Allon Khakshouri, Graham Pearce, Charles Smith, Salah Tahlak

南北アメリカ4名
Elaine Bruening, Gavin Forbes, Mark Stenning, Raul Zurutuza

ATPの活動に参加するにはメンバーならなければなりません。メンバーにはプレーヤーメンバートーナメントメンバーがあります。

「選手の声が反映されず、トーナメントサイドの声が重視される」という選手の不満の背景について

これらのリストを見て気がついたのですが、取締役会のトーナメント代表者3人が、同時にトーナメントカウンシルのメンバーになっています(太字の名前の3人)。この3人はトーナメントのロビイストの役割を果たし、選手よりもトーナメント重視の政策に圧力をかけることができます。

しかしプレーヤーカウンシルのメンバーは誰も取締役会のメンバーにはなっていません。これは仕方のないことかもしれませんが、プレーヤーカウンシルで問題を提議しても、取締役会でプッシュしてくれるロビイストがいないに等しいことになります。

選手の声が反映されないという不満は、選手たちに権限が与えられていない組織構造に根本な原因があると思うのです。

選手に権限を与えることに対する反対論

選手に意思決定の権限を与えるということについては根強い反対論があります。ジョコヴィチは「ブルークレーのような重要な件については、我々も意思決定に参加する権限を与えられるべきだ。」と主張していますが、そうなると選手が反対する改革案はすべて流れてしまう危険があると改革論者は反対しています。しかしブルークレーの実施については、トップ50の選手にアンケートをとってみるなど、ATPは選手との会話をはかる努力をするべきだったと思います。

ナダルの辞任について

ナダルがプレーヤーズカウンシルの副会長を3月に任期を待たずに辞めてしまいました。これは彼の意見がなかなか通らないという不満が大きな原因だと噂されていますが、その一つに「ランキングの2年単位制」があげられます。フェデラーが彼の意見に反対するのは、2年単位にすると伸びてきている若い選手たちのランキング向上に大きなハンディキャップとなってしまう点です。2年単位でメリットを受けるのは怪我をした選手です。

結果的には、選手の間でも1年単位の賛成者が多く、2年単位のアイデアは葬られてしまいました。

ナダルが意見を述べテニス界を向上させていこうという努力は買われていますが、彼の意見が自身のメリットにつながることには賛成(2年制のランキング)、デメリットになることには反対(速いコートのブルークレー)ととられてしまっているのは残念なことです。

 テニス選手の組合化について

アメリカの野球、バスケットボール、フットボールの選手たちはプレーヤーズユニオンがあり、労働改善(給料アップ)のために試合をボイコットしたりすることがあります。他のスポーツ界ではアスリートたちは統一した声をもつ組織があり大きな影響を与えていますが、テニスにはこのような選手のための組合がありません。組合賛成の代表者はアンディ・ロディックです。

組合なしでは選手たちが不満を言うのがむずかしい。テニスはスター選手が主体となるスポーツで、彼らの意見が同じページであることが大切なことだ。

会長のフェデラーと副会長のナダルの間で意見の違いがあり、選手の声も同じページという訳にはいかなかったプレーヤーカウンシルでしたが、選手のウェルネスを重視しながら、商業的にも成功を生み、テニスを今後発展させるためにはどうすればよいのか? テニス界は新しい挑戦を迎える時期にきていると思います。

ブルークレーに対する反響

それにしても興味深いのは、マドリッドのブルーに慣れてしまったテニスファンたちが、ローマのレッドクレーに対して、見づらいと認識した点でした。いろんな英字テニスサイトのコメント欄を読んでいますが、今までブルーに反対だったテニスファンがブルー支持者に変わってきているのは面白い現象だと思いました。今後のATPの決断が注目されます。

ブルークレーの滑る真相

マドリッドのトーナメント主催者がフレンチオープンの専門家の意見を鵜呑みにして、エキジビションなどで試験的にやってみることを怠ったことは批判されるべきでした。ナダルのメンターであるカルロス・モヤはマドリッドのスーパーヴァイザーでしたが「ブルークレーは大会数日前までは、レッドクレーと変わらない完璧なコンディションだった。」とスペインのスポーツ紙に発表しました。あの時点では違いは色だけだったのですが、意外なことが起こったのです。その真相はローマが終われば記事にしたいと思います。

(更新)

プレーヤーカウンシルのメンバーになるには、まず立候補しなければなりません。現役選手で最も貢献したのは2002年にプレーヤーカウンシルに立候補して選出されたユビチッチです。彼は2004年から2006年にカウンシルの副会長に、そして2006年から2008年まで会長を努めました。2008年にはATPの取締役会のプレーヤー代表になり選手の待遇改善のために大きな貢献を果たしました。

2008年の選挙でフェデラー(1位)ナダル(2位)ジョコヴィッチ(3位)が将来のATPを懸念して(ハンブルグ大会のATP訴訟事件)カウンシルの代表に立候補して、フェデラーが会長、ナダルが副会長に選ばれました。ジョコヴィッチは一期(2008年〜2010年)でカウンシルを辞任しましたが、フェデラーとナダルは継続して会長、副会長に再選されました。しかしナダルは2012年3月に任期を待たずに辞任してしまいました。

 

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6 Comments

  1. ブルークレイといっても、ブルー(色)とクレイ(つるつる滑る)と、問題を切り分ける必要があるのではないでしょうか? ジョコがブルークレイと表現しているのは滑りやすいことをさしていると思いますが、決勝まで勝ち進むことを考えたら、神経質になるのは当たり前だと思います。

    つるつる滑るコートは危険であって、それでいい訳はありません。これは主催者側もコート整備の不備を認めて謝罪しているので、改善すれば済むことです。
    問題は選手を交えて充分新しいコートの準備をしないで見切り発車してしまったことにあるのではと思います。ジョコやナダルの発言は、そういうことに対する抗議からきているのでは?と私は思っています。

    そして、選手の声が届きにくいのは、先日「ATPのパワー構図」で記事にして頂いたように、組織運営に問題があるのですね。ジョコやナダルが発言するからこそ、問題として取り上げられたのであって、ランクの低い選手が発言してもなかなか取り合ってもらえないのでは?と思います。過激とも思える発言で一石を投じた結果は手応えがあったということですね。

    テニス人気をどう高めていくか? 協会、主催者、選手が一緒になって考え、バランスをとって行動していかなくてはいけませんね。

    そうそう、もうローマ大会も終わったことですから、ペンディングになっているブルークレイの滑る真相を記事にしていただけませんか?
    それと、スタコフスキーのフェデラーとナダルを比較した興味深いコメントというのも興味があります。

  2. stefanfanさん

    お久しぶりです。コメントいただいて嬉しいです!

    さてご質問ですが記事の最後に(更新)を付け加えて簡単に説明させていただきました。ユビチッチは会長の仕事に翻弄されてランキングが一挙に落ちてしまいました。しかし彼の貢献で様々な改革案が実践され、最も尊敬される選手の一人ですので、引退した彼に今後も役員の仕事を続けていってほしいという声が高まっています。

    何期会長を続けられるのか規則はしりませんが、最後に大きな改革をするために、フェデラーはもう1期続けるのか、それとも今年最後でやめるのかはわかりません。しかしナダルがフェデラーのことを中立すぎると批判気味のコメントを残したのは確かでした。

    ATPのトップ100選手のスタコフスキーがフェデラーとナダルを比較した興味深いコメントがありますので、次回で紹介したいと思います。

  3. ひとつ質問です。
    プレーヤーカウンシルのメンバーは選手投票ですが立候補とかするんですか?
    それとも、ほとんどは押しつけ状態なんでしょうか。

    ロジャーがこの役割は皆が思っているよりもずっと手間暇がかかると言ってました。
    しかし「トーナメント、トーナメントディレクター、プレイヤー、ファン、メディア、皆にとって良いプラン」を考え、
    そのあいだ持ちをする事、それが自分が会長を続けている理由だと言ってました。
    その為には、これからも多くの選手と会話をしていくつもりだとも語っていましたね。

    もし皆がフェデラー会長に不満をもてば今年の全米中の投票では選出されない・・・
    なんて事も起こりうるのでしょうか。

  4. ロ-マ大会見てるとやはりボ-ルが見にくいですね。コ-トの色変更が駄目なら、ボ-ルの色を変えて欲しいですよね。

    或いはLive放送を10秒くらいデレイさせてCGでボ-ルを際立たせるとか簡単に出来ると思うんですが・・。もうちょっと、ATP WTAには知恵と金を出して欲しいですね。

  5. やはり個人戦スポ-ツなので、まとまりも良くないんでしょうね。

    ちょっと、ジョコやロジャ-と一緒に添田や杉田が連帯して、とかいうのは考えられないですよね。

    コ-トコンデイションとかにああだこおだと文句言えるのは、本当に一握りのトップ選手だけで、トップ20以下の選手は日々移動と練習とポイント稼ぐのでアップアップなんでしょう。

    それを考えるとトップ選手でありテニス界のス-パ-スタ-であるラファが辞任というのは残念ですね。粘り強く彼のようなスタ-選手が発言し続けないと、代わって声を出せる選手はいませんからね。

  6. 難しいですねえ。政治などもそうだと思いますが、すべての人(関係者)を満足させる事って出来ないと思うし。問題を抱えているのはどこの組織も同じ、ATPもこのブルークレーの問題がきっかけとなって、選手側の要求がもっと運営に反映されるなど改善されるといいですね。

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