ワールドグループから転落した帝国スペインが意味するもの

Sep. 15, 2014:

今年のデ杯で最もショックだったのは、18年間ワールドグループで5度のチャンピオンに君臨したスペインが、プレーオフでブラジルに敗れ、ついにワールドグループから転落してしまったことでした。ナダルを筆頭にスペインにはトップ100の選手が12選手もいますが、30歳以上の老齢選手が5名も占め、未来を背負う21歳以下の選手はトップ200ではゼロというお寒い現状。一世を風靡したベースラインテニスのスペインテニスが時代遅れになってしまった感があります。

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テニスは10年ごとにプレースタイルが変わると言われていますが、今年の全米オープンはチリッチと錦織の決勝となり、2005年の全豪オープン決勝(サフィンvsヒューイット)以来、初めてビッグ4がGS決勝から姿を消し、時代の節目を感じさせるエポックメイキングな出来事となりました。

プレースタイルの変化はラケットやストリングのテクノロジーの向上で、パワー、スピン、コントロールが増し、ますますフィジカルになってきたことがあげられます。そのためにショットメイキングの技術だけでなく、球を追うリカヴァリーの速さとスタミナが必須条件となってきました。

ベースライナー時代

テクノロジーの向上で、ネットの選手に強烈なパッシングショットで抜くことができるようになり、サーヴ&ヴォレーだけでなく、ネットへラッシュすること自体が自殺行為に近くなってきました。そこでナダルに象徴されるベースライナーのスペインテニスが黄金時代を迎えることになるのですが・・・

スペインテニスで最も注目されるのが、building pointと呼ばれるポイントの組み立てです。ナダルやフェレールのプレーはフィジカル面だけが注目されているようですが、ベースラインからラリーによってチャンスをクリエートする戦略が他の選手たちに大きな影響を与えてきたのは言うまでもありません。

アメリカンテニスの衰退は、ポイントを組み立てることをせずに、パワーで攻める一面的なハードコートのプレースタイルで、ラリーがつづくとコンシスタンシーを失ってエラー。ウィナーかエラーかのプレースタイルでは、勝てなくなってきたのは当然です。USTAはスペインテニスを見習えと全国にクレーコートを建設しました。

ナダルが子供の頃から通っているマヨルカのクラブで、数年前に個人レッスンを受けてきましたが、その時に「どんなよいショットを打ってもボールをコートの外に出してしまってはおしまい。何球でも続けられるコンシスタンシーがなければならない。」と何度もお叱りを受けました。まさにこれがスペインのテニスだと納得。

マリーがジュニアの頃にナダルのプレーをみて大きな影響を受け、「僕もスペインでテニスを習いたい」とスペインへ留学しました。ディフェンスではナダルに負けない技術を身につけたのもスペインテニスのおかげです。

しかしサーフェスの均一化によって、クレーが速くなり、ベースラインから多くのスピンをかけても、バウンスが昔のように高くなく、スピンショットのラリーでポイントをとるベースライナーだけでは勝てなくなってきました。

衝撃的な出来事が起きたのは2009年です。ソダリンが全仏オープンで不滅のクレーキングのナダルを破り、全米オープンでデルポトロがフェデラーを破って優勝。この二人に共通するのは、ビッグサーヴ、モンスターFHの2点でした。ソダリンは193cm。デルポトロは198cm。あの年以来、私は何度も『パワーテニスの到来』について書いてきましたが、当時は正直いって錦織はあのジャイアンツたちのパワーには勝てないと思っていたのです。

今年の全米オープンはビッグ4が消えてしまっただけでなく、テニスのプレースタイルのターニングポイントのGSだったと思います。

チリッチと錦織の決勝で、ネクストジェネレーションの到来と話題になりましたが、新ジェネレーションを象徴するのが、彼らのプレースタイルだと思います。

「相手に時間を与えない」「超アグレッシヴ」「パワーテニス」

今日のテニスはスペインテニスのように、じっくりとベースラインからポイントを組み立てていては間に合わなくなってきました。1本目から攻めて行かなければなりません。サーヴィスゲームはサーヴで決める。リターンゲームは相手のサーヴをアタックしてリターンウィナーをとる。ラリーが続けばエラーをおそれずウィナー級のショットを打ち攻め続ける。

あまいカウンターショットが返ってくればコートの中に入って叩く。

コートの外に追い出されてしまっても、ディフェンスのポジションからウィナーを狙う。

ウィナーを打たなくとも、あまいショットが返ってくればネットラッシュしてヴォレーで決める。ナダルが依然として強いのはネットプレーが格段に上達したからですが、それでもベースラインの方が居心地よくなかなか前進しようとはしません。

しかしイズナーのようにいくら爆弾サーヴやミサイルFHを打っても、足がなければ勝つことはできません。パワー(チリッチ)とスピード(錦織)のダイナミックなテニスを代表するこの二人が決勝に残ったのは未来テニスを象徴するGSだったと思います。

なぜスペインで若い世代が育たないのか?

Sapin Davis Cup 2011 champion

(写真:スペインの最後のデ杯優勝となった2011年。黄金時代を築いたナダル、フェレール、ベルダスコ、Fロペス。)

スペイン選手の老兵化

トップ100の中にフェレールをはじめ32歳の高齢選手が4名も健在で活躍してくれるのは嬉しいのですが、12名中、若い選手は23歳のカレノブスタ一人で、スペインの選手層のネクストジェネレーションが育っていないことを示しています。

(2位)ナダル:28歳
(5)フェレール:32歳
(15)バウティス タアグト:26歳
(20)Fロペス:32歳
(22)ロブレド:32歳
(28)アルマグロ:29歳
(32)ガルシア ロペス:32歳
(34)ベルダスコ:30歳
(44)アンデュハー:28歳
(46)グラノエールズ:28歳
(63)カレノブスタ:23歳
(71)ラモス-ビノラス:26歳

21歳までにトップ100に入らなければトップ10にはなれない(これは私のセオリーです)

次代を背負うのは100番、200番台の若い選手たちです。まもなく26歳になるチリッチですが、急に強くなったのではなく、すでに21歳で9位になっています。錦織は18歳でデルレイビーチのタイトルをとり、21歳では25位まで駆け上っています。過去のデータからも、21歳までに芽がでなければ、トップ選手になる可能性はほぼゼロに近いと思っています。

スペインはトップ200で21歳以下の若い選手はゼロ

トップ200に16選手がおりますが、21歳以下の選手がいない!というのは非常な驚きでした。

(110)モンタネス:33歳
(112)リバ:26歳
(135)ギメノ トラベール:29歳
(160)メネンデス マセイラス:28歳

トップ300でようやく21歳以下が二人という寂しいニュージェネレーション

(214)カルバエス バエナ:21歳
(276)ロカ バテラ:21歳

スペインがこれほど若い選手層に欠けてしまっているとは! これはベースラインのディフェンステニスから抜けきれていないスペインの現状を語っていると思います。

バルセロナのナダルとの決勝戦で錦織がリタイアしてしまったものの、彼の圧倒的な攻撃テニスを観て、コーチのトニは「あの決勝は完全にナダルの敗北だった。」と感想を述べていたことを思い出します。

コートを空けてしまってはならない。それを最もよく知っているのはナダル自身です。出来るだけベースライン近くで、攻撃ショットを打とうと努力していますが、どうしてもエラーの数が多くなってしまいます。

ナダルの進化の過程はスペインテニスを象徴しているようで興味深いものがあります。長い間怪我で休場しているアルマグロですが、クレースペシャリストからハードコートでも勝てるアグレッシヴな選手に成長しました。しかし大半の選手はディフェンステニスを基本にしたアグレッシヴに欠けるテニスをしています。

スペインは伝統の殻を破ることができるのか? ナダルの引退する頃はトップ100からスペイン選手が姿を消してしまうかもしれず、悲劇のテニス帝国になってしまわないことを祈るばかりです。

オーストラリアにみる未来のテニス

レイヴァー、エマーソン、ローズウォール、キャッシュ、ラフター、ヒューイットなどGSチャンピオンの多くを生んだオーストラリアですが、若い世代が育たず、ワールドグループに常在できずにin and outを繰り返してきました。もうオーストラリアはこれで終わりなのか、と寂しい想いを抱いていたのですが、トミックが彗星のごとく現れ、そして今年は19歳のキリオスがセンセーションを起こしました。

デ杯ではウズベキスタンに1セットも落とすことなく圧勝してワールドグループ入りを果たしたオーストラリアですが、トミック、キリオス、コキナキスなどの若い世代に共通するのは、長身、ビッグサーヴ、パワー、フラット系の速球、そしてスピードです。

トップ200以内に21歳までの選手が5名もいます。誰一人もいないスペインとはすでに大きな差がでてきています。

(49位)ヒューイット:33歳
(51)キリオス:19歳
(65)トミック:21歳
(80)マトセヴィッチ:29歳
(88)エブドン:26歳
(95)グロス:26歳
(148)ダックワース:22歳
(165)サヴィル:20歳
(184)コキナキス:18歳
(194)クブラー:21歳

デ杯強国となるクロアチア

チリッチの優勝でクロアチアがクローズアップされてきました。ネクストジェネレーションが着実に育っているのがクロアチアです。まずは17歳のチョリッチ Coric(178位)。そして21歳のデリックDelic(153位)。この二人はすでに今年のデ杯に出場して貴重な経験を得ました。

個々的にはドイツの17歳のツヴェレフZverevが150位で最先端を走っています。彼は全米オープンの予選1回戦で内山を敗った試合を観ましたが、トップ選手の可能性を秘めたエキサイティングなプレーをみせてくれました。父はコーチ、兄はプロ選手とテニス一家で育ったために、センスは抜群なものがありますが、しかしすでに198cm。まだまだ伸びていくことが考えられ、2m以上の選手の限界がやってくるのが残念。

激しく揺れ動く今日のテニス界で、錦織がどこまで記録を伸ばし続けることができるか?

Can Nishikori continue to excel?
Yes, he can!

(更新)他の国々の選手たちを調べてみました。

フランス
デ杯決勝を決めた層の厚いフランスを調べてみました。スペインと同様にベテランが活躍していますが、若い選手がいないのです。トップ200で21歳未満は、199位の20歳のルーカス・プイ Pouilleただ一人でした。

アメリカ
イズナーとクエリーは強いアメリカを復活させることができませんでしたが、期待できるのは、ネクストジェネレーションでは21歳ですでにGSのダブルスとミックスダブルスでタイトルをとったソック Sock(68位)。しかし彼にはデ杯で助けてくれる同世代の選手がおりません。

アメリカが期待するのは、ネクストネクストの16歳のジュニア選手たちです。ティアフォー Tiafoeとモー Mmohは二人とも移民の黒人。彼らは個人的にも大の仲良しで、今年はWCでダブルスに登場し生観戦をすることができました。二人とも190cm近い長身のスーパーアスリートで、ウィリアムズ姉妹のように、ブラックパワーでアメリカに黄金時代をもたらしてくれる可能性がでてきました。

また16歳の元ジュニアNo.1のコズロフKozlovはオールコートの選手で実に洗練されたテクニックとコートセンスの持ち主。しかしジュニアで勝てても、シニアで活躍するにはパワーアップが必要。今の178cmからどれだけ伸びることができるかがカギ。

1歳年上ではテイラー・デントがコーチングする17歳のドナルドソン Donaldsonが注目されています。まさに188cmのパワーテニス。コンシスタンシーに欠けますが、ダイナミックなデントのテニスを彷彿させてくれる選手で、まもなくトップ200を突破してくる選手です。

日本
21歳以下をさがしてみましたが、やっと出てきたのが、689位の斉藤 貴史(さいとう たかし)。19歳。しかし175cm・・・

彼のプレーは観たことがありませんが、190cmの同世代のパワーテニスに対抗するのは辛いものがあります。

今年は予選から勝ち抜いて日本男子が活躍しましたが、やはり最後にはパワーで負けてしまっていました。ジュニアでも全員が1回戦で敗退。体のハンディは明らかで、錦織のようなオンザライズの炸裂FHを打たなければ、ラリーをつづけてもポイントが決められない。そのために永遠とラリーがつづくことになり、ガス欠になってしまって敗退。根本的な違いはサーヴ力で、この差は埋めがたいものがありました。

しかしサイズとパワーのハンディがあるにもかからず、決勝まで進んだ錦織は、テニスはそれだけでないことを証明してくれました。あらゆるフィジカルの限界に挑戦しながら、克服していった錦織は世界のテニスファンを魅了しました。

ますますパワー化するテニス界にあって、果たして修造、圭の後につづく日本選手が登場するでしょうか?

天才をテニスにリクルートするだけでなく、天才を育てる条件が整っていなければ、錦織のような選手は出現しません。今の日本には世界レベルの選手と連戦錬磨して磨いていく環境にありませんので、海外で育ててもらわなければなりません。

そのためには途方もない経済的負担がかかり、日本の未来は心細いものがありますが、錦織が日本の子供たちに与えたインスピレーションは計り知れないものがあり、世界に飛び立つ子供たちが増えてくると私は信じます。

ガンバレ、ニッポンの子供たち!

8 Comments

  1. sandersoniaさん

    Thank you! そうでした!チリッチが決定ラバーで勝利をもたらしたのですよね。さっそく訂正します。

  2. いつも拝読させていただいています。

    クロアチアはオランダに勝利して、WGに残りました。
    rubber4でハーセがフルセット逆転勝利でチリッチを引っ張りだしたのですが。

  3. simonadalさん

    スペインテニスファンの皆様には酷な記事となってしまいましたが、かならずスペイン帝国が戻ってくると信じています。

    スペインはコーチ間の交流がさかんで、たえず向上しようという努力がなされています。新しい技術や作戦を積極的に取り組んでいますので、少し時間がかかるかもしれませんが、ジュニアが伸びてくると思います。

    ただスペインのジュニアはジュニアサーキットに出ず、16歳頃からプロとしてフューチャーズに出ていますので、彼らの実態がよくつかめないのですが、突然ナダルのような選手が出現するかもしれませんね。

    atomさん

    デ杯2015年のドローはおっしゃる通り18日ドバイの現地時間夜7時ですね。ということはニューヨークは朝の11時。日本は19日の午前0時ですかね。デ杯の以下のサイトでライヴのストリーミングでみることができるので、楽しみです。

    http://www.daviscup.com/en/news/186951.aspx

  4. 今回のメンバーでも、
    ワールドグループ残留できる実力を十分もってると思うんですけどねぇ。
    意外な結果でしたね。
    とても地味ながら、手堅く結果を残してきてるバウティスタ・アグトを
    結構応援してるのに・・・。
    ラファとダヴィは多大なる貢献をしたので、
    もう個人の成績に集中してもらって、
    彼をエースに据えて、
    次世代の選手が出てくるまで頑張ってもらいたいです。

  5. 間違えた!
    ツヴェレフが楽天に来たのは去年でした。
    誤報です。失礼しました

    ところで気の早い話ですが、来年のデ杯1回戦のドロー抽選は明日18日って公式サイトに書いてあったような・・・?
    日本も1回戦からスイスやフランスと当たる可能性があるってことですよね(^_^;)

  6. ふむふむ、なるほど・・・興味深く読ませていただきました。
    チリッチにしてもドーピング問題でランキングこそ落としていましたが、次世代として期待の若手でしたからね。
    圭くんにしても、96年ぶり、つまりは100年に1人の逸材ってことなわけで、正直なところ誰もが圭くんみたいになれるかは分かりませんが、少なくとも、目指すべき人が近くにいる意味は大きいと思います。
    タロ君も自分に足りないのは筋力(パワー)だと分かっていますし、せっかく恵まれ体格を授かっているのですから成長を期待したいですね。
    西岡くんも、とてもスピードあってテクニックもあるので期待している選手の1人です。まだ18歳ですし、もう少し身長が伸びないかな?と期待しているんですけど(^_^;)
    中川君も、圭くん以来のGSジュニア(ダブルス)優勝と言う事で、これを機に伸びていってほしいですね。

    楽天の予選にツヴェレフが出場予定のようなので観るのが楽しみです。

  7. tennisnakamaさん、
       示唆に富んだ記事、興味深く拝見しました。

    各国、若手の育成には力を入れていますが、
    やはり地理的に多彩なツァー、CH FUに参戦できる環境は大切ですね。

    圭くんが帰国後のインタビューで、若いうちから国際的な大会を目指すことの大切さを述べていましたが、
      私も、圭くんに続く日本の若い力に関心を持ち始めたところです。
    159位ダニエル太郎 19歳 190cm 76kg
    167位西岡 良仁  18歳 170cm 63kg IMG
    689位斉藤 貴史  19歳
    699位内田 海智  20歳
    747位中川 直紀  17歳          IMG
    859位後藤 翔太郎 20歳
     中川君までは、FU以上で優勝を経験しましたね。
    勿論、22歳以上でも選手生命が長くなる中、期待は持つべきだとは思いますが、それぞれの選手がどんなプレイスタイルを身に着けて活躍するか、楽しみにしています。

     100位以内は針の穴を通すような厳しい競争ですね。

  8. 的確な分析ですね、本当にテニスの流れが変わってきました。

    しかし、どういう流れになっても、同じ技量なら身体がでかい方が圧倒的に有利なので、日本人選手は大きなハンデイです。

    身体がでかいといっても、トップ選手はオ-ル ラウンダ-で技術も高いので、彼らを破るのはなかなか至難の業です。

    若手のホ-プ、西岡も170cmですからね。これでは厳しい。マイケル チャンの活躍を思えば、それでもトップ100や50には入れるかもしれませんが、そこから先はかなり厳しそうです。

    そういう意味では、190cmの太郎君に期待するしかないみたいですね。もうちょっと筋力が上がると、かなりいけそうな気もしますが・・。

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