シャラポヴァのドーピングの真相に迫る

Oct. 7, 2016

全豪オープンでドーピング違反が判明し、2年間の出場停止処分を受けていたシャラポヴァ(29歳)ですが、その処分を不服として異議申し立てを行った結果、停止期間が15ヶ月に軽減されて、2017年4月26日から復帰することになりました。

シャラポヴァの尿検査から検出されたのは、今年から新しく禁止薬物に指定されたメルドニアム。ここでシャラポヴァのドーピング事件のいきさつについて簡単に説明したいと思います。

2015年12月22日
シャラポヴァはメルドニウムMeldoniumが2016年度の禁止薬物に指定されたことを通知するWADA (World Anti-Doping Agency)からの手紙を受け取る。

2016年1月1日
メルドニウムが禁止薬物に加えられたアンチ・ドーピングプログラムが発効。

1月26日
全豪オープンの準々決勝でシャラポヴァはセリーナ・ウィリアムズに敗退。試合後に受けた薬物検査でメルドニウムが検出される。

3月2日
ITFはシャラポヴァに禁止薬物が検出されたことを通知。シャラポヴァは直ちに服用していたことを認めたが、処分について独立裁定機関に「故意による行為ではなく過失であった。」とアピール。

3月7日
ロサンゼルスでシャラポヴァが記者会見を行い、禁止されているメルドニウムを服用していたことを認め、メルドニウムが禁止リストに新たに加えられていたことを知らなかったと釈明。

5月18日・19日
ITF審議会による審問が2日間にわたり行われる。

6月8日
ITFが2年間出場停止処分(2016年1月26日〜2017年1月25日)を発表。ITFは最初は「故意に禁止薬物を服用した」として4年間の停止処分を要求していたが、審議会は「故意かどうか判断を下すのは難しい」として、2年間の処分に半減。しかしシャラポヴァは今年の全豪オープンの出場資格を失う。

シャラポヴァは直ちにスポーツ仲裁裁判所(CAS)に処分の出場停止について異議申し立てを行う。

10月4日
CASが2年間の停止処分を15ヶ月に軽減したことを発表。シャラポヴァは2017年4月から出場資格を受け復活を認められる。

ざっとこのような経過を経て、シャラポヴァは9ヶ月少ない15ヶ月間の処分となり、来年の全仏オープンの出場が可能になったわけですが、今回の記事の焦点を判決の内容ではなく、「なぜシャラポヴァがメルドニウムを10年間にわたって服用していたのか、またその使用を隠していたのか?」に絞ってみたいと思います。

meldonium

なぜメルドニウムが禁止されたのか?

まずメルドニウム(別名Mildronate)は1970年にラトヴィアの科学者Ivars Kalviņšによって発明された薬ですが、アメリカや西欧では禁止されている薬です。心臓病の予防として血液の循環を促すことを目的としていますが、その結果血液への酸素補給を促す薬としてロシア・東欧の選手に多く使用されてきました。つまりPerformance-Enhancing Drug競技能力強化剤として使用されてきたわけです。

British Medical Journalが調査の結果を発表しましたが、2015年に行われたヨーロピアンゲームで、762のアスリートのうち、66名(13名がメダリスト)がメルドニウムを使用していることがわかりました。昨年まではメルドニウムは禁止されていた薬ではありませんでしたが、あまりにも多くの選手が病気を理由にするのではなく、試合前と試合中に服用していたことが明らかになり、メルドニウムへの関心が高まり、リサーチの結果、アスリートの養成とスポーツ界の健全な発展に害を及ぼす薬物として、今年から禁止されることになりました。

なぜシャラポヴァがアメリカで禁止されている薬物を使用?

7歳からアメリカに在住するシャラポヴァが、なぜ2006年から10年間にもわたり、販売を禁止されているメルドニウムを服用し続けたのか? ここが私が最も疑問視する点です。

「私は当時よく病気にかかっていました。マグネシウムが足らなかったのです。心電図の結果、私は糖尿病の家系で、糖尿病の兆候があることが分かったのです。」

心電図は心疾患の診断と治療に役立ちますが、糖尿病には血液検査です。心電図で糖尿病を診断して薬を処方してもらうのはちょっと不思議です。

ロシアや東欧の多くの選手が使用していたように、シャラポヴァは試合前と試合中に使用し続けてきたわけですが、この点も健康上の理由の説得に欠けます。

メルドニアムは「メンタルフォーカスを増し、シャープな感覚を取り戻し、しかも早いリカヴァリーを促す」とその効果を宣伝されていますので、アスリートにとっては理想的なピルだと思います。しかも簡単にロシア・東欧諸国で手に入るのですから、多くのアスリートが使用してきたのは納得できます。

しかしシャラポヴァは服用はあくまでも糖尿病や心臓病の予防であったこと、そして使用禁止を知らなかったことを理由に、2年間の処分は不当であるとアピールしました。

シャラポヴァにメルドニアムを処方したのはロシアのオリンピックチームドクターのAnatoly Skalny医師で、過去30にもわたる薬物をWADAに合法であるかどうか問い合わせてきた医師です。彼はあまりにも多くの薬をシャラポヴァに処方してきて、2012年には彼との関係を絶っていますが、シャラポヴァはメルドニアムを飲み続けてきました。

なぜ大スターの周囲が禁止を知らなかった?

ドーピング問題は選手生命に関わる重大問題ですので、チェックするのはエージェントの役目です。2013年から禁止薬物のチェックを担当することになったIMGのMax Eisenbudは、毎年11月にドーピングのリストをチェックするのを昨年は怠っていたことがわかりました。理由は妻との別居騒動でうっかりしていたとか・・・しかし「世界で有数なエージェントのIMGの理由としては、うっかりは信じがたい」というのが、審議会の言い分です。

sharapova-meldonium

なぜシャラポヴァは過去に禁止薬物でなかったメルドニアムを申告しなかったのか?

検査を受ける時にドーピングに関する質問事項に答えなくてはなりません。もっとも重要な質問に「この7日間に摂取した薬のすべてを記入する」項目がありますが、シャラポヴァは2014年から2016年の1月まで7回のテストを受けた時の書類には、他の薬の名は記入してもメルドニアムは記入していなかったそうです。イギリスのIndipendent紙が詳しく彼女の申告漏れについて記事にしています。

2015年はメルドニアムはドーピングのリストに含まれていなかった年ですが、シャラポヴァはウィンブルドン、WTA ファイナルズ、そしてフェドカップ決勝でドーピング検査を受けた時に、メルドニアムを摂取しているにもかかわらず、申告しておりません。

シャラポヴァの言い訳は、「申告するのは毎日摂取している薬だけだと思っていた。」ということですが、昨年のウィンブルドンでは7日間のうちメルドニアムを服用したのは6日間、今年の全豪オープンでは7日間のうち5日間服用していることがわかりました。これはほぼ毎日に等しい服用回数です。

病気のために使用しているのなら、しかも禁止薬物でないのなら、「なぜ堂々と申告しない?」というのが審議会の言い分。私も同感です。申告しなかった理由はやはり隠さなければならない理由があったとみられても仕方がないと思います。

「2006年(19歳の時)にたとえ医療の理由でメルドニアムの処方を受けたとしても、その後10年もの間、他の医師や医療関係者のアドヴァイスを受けずに、しかもエージェント以外のチームに隠して服用し続けた理由は、メディカルではなくエネルギーを増進することにあった。」と審議会は処分について説明しています。これは妥当な意見だと思います。

15ヶ月の処分を受けた後シャラポヴァはITFを批判

10月4日に判決が下されることがわかっていましたので、シャラポヴァは有名なチャーリー・ローズのインタビュー番組に4日の当日にさっそく出演。IMGのて早いPRはさすがでしたが、9ヶ月の軽減にもかかわらず、シャラポヴァはITFのやり方を一方的に批判したのはどうも感心しません。

シャラポヴァはスポーツ界においてはドル箱スター。9ヶ月軽減の判決には巨大なIMGの影響があったと思います。彼女には一刻も早く復帰して稼いでもらわなくてはなりません。シャラポヴァも1日も早く汚名を返上してイメージの向上に努めなくてはなりません。

ビジネスはともかく、子供たちにとってアイドルであり、ローモデルでもある彼女に今一番必要なことは名誉を挽回すること。そのためには薬を飲まなくても勝てることを実証してほしいと願っています。

(コメントは一時承認制にさせていただいておりますのでご了承ください)

6 Comments

  1. tennisnakamaさん、早速に記事を起こして頂き、有難うございます。
     やはり服用の背景には大きなプレッシャーや誘因があったのかと
      思われますね・・・
    でも、私もアスリートとして努力しているシャラポワも垣間見ていますので、
     何とか『彼女に今一番必要なことは名誉を挽回すること』のnakamaさんの
      指摘の通り、復帰後に活躍して、復帰を早めてもらったことが良かったと
        皆が納得できる状況になって欲しいものです。
     重い処分も象徴的な存在に対して重点的に行われますし、象徴的な存在が
      その困難を乗り越えて活躍することにもスポットライトが当たりますし。

  2. メルドニアムという薬品は全然知りませんが、副作用とかの報告とかはないんでしょうか?

    副作用が無ければ、絶対に禁止すべきですね。普通は、副作用というリスクを取る人間とそこまでしなくてもという人間に分かれますが、副作用が無いということになれば、選手全員服用するのも服用しないのも同じです。で、効果があって副作用が皆無というような有り難い薬品は殆ど存在しません。

    • comoさん

      昔ノーベル賞科学者をインタビューするシリーズを担当した時に、ある科学者は「副作用のない薬はない」と言っていました。
      メルドニアムの摂取は6週間までとなっています。それを10年というのはやはり・・・

      • そうですか、6週間を10年間ですか。なら、殆ど副作用のない薬品なんですね。

        6週間期限の設定は、薬効確認の目安の筈ですから、10年間も使用してたということは、シャラポワには実感として薬効があったんでしょうね。

        恐らく使用中止したら、パフォ-マンスが落ちると関係者皆思ってたんでしょうね。そうでなければ、IMGほどの企業がドル箱選手に禁止薬品を伝え忘れるなんてあり得ません。

        彼女も30歳近くなって、稼げるとこまで稼いで貰おうという事だったんでしょうね。

        若ければ、先が長いので、直ぐに使用を止めさせたんでしょうけど。

        IMG内部の事情は分りませんが、テニス部門やゴルフ部門や色々プロスポ-ツ部門があるそうなので、その部門間での稼ぎ競走も激烈なんでしょう。

  3. >9ヶ月軽減の判決には巨大なIMGの影響があったと思います

    結局ここなのでしょうか?世の中お金でどうにもなる、、、お金さまさまですね。

    この事件が発覚した時アンディ・マリーなんかはかなりはっきりと発言していましたが、この処分について真面目にやっているアスリートはどう思うのでしょうね。薬を飲んでお金もバンバン稼げる。うーん、私は嫌だなあ。ずるいなあ、と思ってしまいますが。

    • Moominさん

      Follow the money. これは資本主義の基本です。残念ながら「世の中はカネ次第」は当たっていると思います。

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